ニュースの概要
Biobest Groupは、温室栽培で厄介者とされるアブラムシへの対応として、GreenViewの取り組みを紹介した。中心にあるのは、特定の薬剤だけに頼らず、害虫の発生状況を継続して調べ、その結果に応じて複数の手段を組み合わせるという考え方である。いわゆる統合的病害虫管理(IPM)の実践だ。具体的には、日々の観察で発生を早めにつかみ、予防的な対策を講じ、密度が上がった場合には天敵などの生物的防除を含む介入を段階的に行う。作物への影響を抑えつつ、防除にかかる負担も軽くすることがねらいとされる。個別の製品紹介というより、防除を一つの仕組みとして設計し直す提案と読める。
引用元: Biobest、アブラムシ対策でIPMを活用する統合的アプローチを紹介(Biobest Group NV / Worldnews.com)
分析・見解
発生を見てから叩く方式が、アブラムシに効きにくい理由
アブラムシは、雌だけで子を産む単為生殖(=交尾なしで増える仕組み)で増える。条件がよければ一週間ほどで世代が替わり、気づいたときには新芽や葉裏に群れている。
薬剤で叩く方式には弱点がある。巻いた葉の裏に隠れた個体には、薬液が届きにくい。生き残りが子を産むと、薬が効きにくい系統が育つ。しかも薬は、アブラムシを食べる天敵まで減らしてしまう。
だからIPMでは、どの薬を使うかより先に、いつ、どこに、何匹いるかを知ることから始める。
見回りの記録が、天敵を放す時期を決める
見回りの方法は地味である。黄色の粘着板を通路や換気口の近くに吊るし、飛んで来る有翅(=羽のある)個体を数える。同時に、葉裏を決まった株数だけ調べて記録する。
この記録が、天敵を放すタイミングを決める。寄生蜂やタマバエの仲間は、餌となる害虫がまったくいない温室では定着しにくい。だから少数のうちに放つのが効率的だ。麦などを植えて天敵の餌を別に用意するバンカープラント(=天敵の待機場所になる植物)も、同じ発想の道具である。
記録が溜まれば、ハウスの端や入口など、発生が始まりやすい場所も見えてくる。
規制と市場が、薬剤中心の防除を押し戻している
薬剤中心の防除は、規制と市場の両側から押されている。EUは農場から食卓までの戦略で、2030年までに化学農薬の使用とリスクを半減する目標を掲げた。日本でも、みどりの食料システム戦略が2050年までに化学農薬のリスク換算での使用量を50%減らす方針を示している。
先行例はオランダの施設園芸である。トマトやパプリカの温室では、天敵を前提にした防除体系が広く定着している。害虫を完全にゼロにするのではなく、被害が出ない水準で共存させる設計が主流だ。今回の発表も、この流れの延長に置いて読むと位置づけが分かりやすい。
本当の差は、天敵そのものより運用の細かさに出る
天敵の製品は、買えば誰でも同じものが手に入る。差がつくのは運用の細かさだ。たとえば、他の害虫に使う薬が天敵に何日残るか。アブラムシの甘露(=排せつ物の蜜)を求めて、アリが群れを守っていないか。こうした確認の積み重ねが、結果を分ける。
なお、今回の内容は天敵を扱う企業側からの発信である。効果の大きさは作物、季節、施設の構造で変わるため、数字をそのまま自分の圃場に当てはめるのは危うい。今後は画像解析による自動の数え上げが広がり、見回りの負担と個人差が減ると見込まれる。ただし、判断の基準を決めるのは人である。
ビジネスへの影響
導入前に決めておきたい三つの基準
まず、どこまでの被害なら許せるかという水準を決める。次に、見回りの頻度と担当者を決める。最後に、一作あたりの防除費の上限を決める。この三つがないと、天敵を入れても評価ができず、不安から薬剤散布に戻ってしまう。
費用を比べるときは、薬剤代だけで見ないほうがよい。散布の人件費、散布後の入室制限、収穫までの待ち日数も含めて計算する。天敵は資材費がかかるが、散布回数が減れば作業時間に余裕が生まれる。実際の差は施設ごとに違うため、自分の過去の防除記録から試算するのが確実である。
また、天敵を使う期間中は、他の害虫に使う薬を天敵への影響が小さいものに替える必要がある。防除全体の計画を一度書き出しておきたい。
一棟から試して、記録を取引先への説明材料にする
いきなり全棟を切り替えるのは避けたい。まず一棟で試し、従来の棟と発生数、散布回数、作業時間を並べて記録する。資材メーカーの技術担当や地域の普及指導員に、見回りの方法を一緒に確認してもらうと失敗が減る。
もう一つ見逃せないのは、販売面の効果である。量販店や輸出先は、農薬の使用履歴や削減の取り組みを尋ねてくる場面が増えている。モニタリングの記録は、そのまま説明資料になる。見回りを担当者の勘に任せず、様式をそろえて残す。この地味な作業が、防除の質と取引上の信頼の両方を支える。
